2011年11月9日水曜日

沈みゆくバンコク:気候変動による暗い未来への序章

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● 洪水に見舞われたタイ・バンコク(Bangkok)で、バスの前を即席ボートで突っ切る男性(2011年11月7日撮影)。(c)AFP/SAEED KHAN




AFP BBNews 2011年11月09日 08:20 発信地:バンコク/タイ
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2839579/8046484?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics

沈みゆくバンコク、
洪水は不吉な未来の序章か

【11月9日 AFP】
 タイの首都バンコク(Bangkok)が、ゆっくりと沈んでいる――もともと湿地だった土地に作られたバンコクを襲った洪水は、
 気候変動による暗い未来への序章
にすぎないと専門家たちが警告している。

 バンコクは、タイ湾(Gulf of Thailand)から、わずか30キロ北方の低地帯に建設された。
 地球温暖化の影響で、タイ湾の海面は、2050年には現在よりも19~29センチ上昇している
だろうと、多くの専門家が予測する。
 さらに、現在も定期的に氾濫を起こすチャオプラヤ(Chao Phraya)川も、水位が増していくことが予測される。
 何も対策を講じなければ、
 「50年後には、バンコクのほぼ全域が海抜以下になる」
と、気候変動を専門とするチュラロンコン大学(Chulalongkorn University)のアノンド・スニドボンス(Anond Snidvongs)氏は言う。

 バンコクを襲う脅威は、地球温暖化だけではない。
 工場や1200万の市民の需要を満たすため、長年にわたって
 大量の地下水をくみ上げてきたことによる沈下問題
もある。
 バンコクは1970年代、1年で10センチずつ地盤が低下したと、世界銀行(World Bank)とアジア開発銀行(ADB)、日本の国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation、JBIC)が2010年に報告している。
 同報告によれば、その後は政府が地下水くみ上げ規制を導入したため、地盤の沈下は1年1センチ未満まで減少した。
 だが、アノンド教授は悲観的だ。
 バンコクは現在も、毎年1~3センチという「懸念すべきレベル」で沈んでいるという。

沈むバンコク

 主張する数値に差はあれ、巨大都市を待ち受ける運命については、みな見方は一致している。

 「もう昔にはもどれない。バンコク(の地盤)が再び上昇することはないのだ」
と、ADBの気候変動専門家、デービッド・マコーリー(David McCauley)氏は言う。
 世界銀行も、
①.地盤沈下、
②.温暖化、
③.海面上昇
と3つの脅威に直面し、2050年のバンコクでは洪水リスクが現在の4倍に高まっていると予測する。
 さらにバンコクは、経済協力開発機構(OECD)が2070年までに世界で最大の沿岸洪水危機に瀕すると警告した10都市にも名を連ねている。

対策はできるのか?

 これまでバンコクは、沿岸の水位上昇への対策として土のう、運河、水門、排水施設などを使った複雑な方法に依存してきた。
 だがこれでは、市北部から押し寄せる大量の水を食い止めることはできず、すでに少なくとも市の5分の1が浸水した。
 モンスーンの影響で3か月も降り続く豪雨で発生した洪水は、いまやバンコク随一の繁華街に迫り、高級ホテルやオフィス、ショッピングモールが危険にさらされている。
 急速に都市化を進めたことも、巨大都市を洪水に対して脆弱(ぜいじゃく)にした一因だと、専門家は指摘する。

 フランスの治水専門家、フランソワ・モレ(Francois Molle)氏は、バンコクの問題は、洪水対策を要する地域が拡大する一方で、ビル建設がすすみ、あふれた水の行き場がないことだと言う。
 モレ氏は、いずれバンコクが水没することは確実で、問題はその時期がいつかということだけだと語った。

都市丸ごと移設案も

 専門家たちは、バンコクの土地利用や開発計画に対するタイ政府の取り組みの必要性を説き、工場や工業団地を洪水被害の懸念がない地域に移設することを提案する。
 もしくは、バンコクを丸ごと移設してしまうことも一案だ。

 アノンド教授も、
 「1日24時間、1年365日、洪水の不安のない暮らしを望む人たちにとっては、
 新都市を建設することがふさわしい
かもしれない」
と語る。
 「新都市建設に適した乾いた土地があるはずだ。
 タイには広い土地が、あちこちにあるのだから」

 首都の丸ごと移設は、あまりにも大胆なアイデアに聞こえるかもしれない。
 だが、海に沈んだとされる伝説のアトランティス(Atlantis)大陸と同じ運命をたどりたくなければ、バンコクが行動すべき時であることは明白だ。

 海岸工学が専門の英サウサンプトン大学(University of Southampton)のロバート・ニコルズ(Robert Nicholls)教授は、バンコクが現在の地にとどまるためには、より強固な保護対策が必要だと指摘。
 さらに、現在の洪水被害によって、バンコクは今後10~20年、洪水対策に巨大な投資が行われることになるだろうと語った。
(c)AFP/Amelie Bottollier-Depois




yomiuri.com 2011年11月9日20時56分 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20111109-OYT1T01010.htm

タイ大洪水被害2・5兆円、100万人失業恐れ

 【バンコク=横堀裕也】タイの大洪水による被害額が総額1兆バーツ(約2兆5000億円)に上るとの見通しを、タイ商工会議所大学がまとめた。

 地元紙が9日伝えた。被害は農業や製造業など広範な分野に及んでおり、1997年のアジア通貨危機以来の深刻な打撃という。
 同大は一時解雇を含め、失業者が100万人に達する恐れもあると指摘した。

 一方、洪水の影響で中断していたタイ国会は同日、再開され、政府予算案の審議が行われ、洪水被害を食い止められないインラック政権の対応に野党側から厳しい批判が相次いだ。

 最近の世論調査では、インラック首相の洪水への取り組みを不満とする声が半数を占めており、政権は窮地に立たされつつある。





newsclip.be 2011/11/11 (01:19)
http://www.newsclip.be/news/20111111_032730.html

「バンコク中心部、10日で水引く」 タイ政府洪水対策本部

 【タイ】バンコクの洪水の見通しについて、タイ政府洪水対策本部のアノン・タイ地理情報宇宙技術開発機関(GISTDA)長官代行は10日、タイのテレビ局数局のニュース番組に出演し、チャオプラヤ川東側のバンコク中心部の幹線道路は今後7―10日で通行可能な状態まで水が引くという見通しを示した。 
 また、戦勝記念塔まで洪水が達することはないと言い切った。

 最新の衛星写真から、バンコクの北にある洪水の水量は約30億トンで、今後20―30日でバンコクのチャオプラヤ川東側に10億トン、西側に15億トンが流入すると推定。
 東側の中心部は北側に設けられた大型土のうの堤防「ビッグバッグ」と運河による排水で、海に流れ出る水量が洪水の流入量を上回り、状況が改善しつつあると分析した。
 西側は流入量が多く、今後3週間、幹線道路の浸水が続くという見通しを示した。

 スクムパン・バンコク都知事も同日、都内各所で洪水の水位が下がったとして、
 今後水の流入がなければ2週間以内に幹線道路から水が引くだろうと述べた

  一方、ランシット大学のセーリー准教授(東北大学工学博士)は公共放送局タイPBSの10日夜のニュース番組で、バンコク各地の洪水の水量と今後予想される流入量、排水能力を示し、
 バンコク中心部の浸水地域で2週間以内に水が引く可能性はないと断言した。

 今回の洪水は
 ピーク時の水量が満水時の琵琶湖の3分の2に相当する160億トン
 浸水した地域が1万6000平方キロに及ぶとみられ、
 これまでに500人以上が死亡、
 ホンダ、ソニーなど日系企業400社以上の工場が水没した。

 バンコクは南下してきた洪水で10月下旬から広い範囲が浸水している。
 中心部は過去数日、東西に走るバンスー運河で水の南下が止まり、日本人が多く住むスクムビット地区やショッピング街のラチャプラソン交差点などは浸水していない。

 タイ政府は洪水の今後の見通しに関する公式見解を示さず、インラク首相、洪水対策本部長であるプラチャー法相ら政府高官からの情報発信はほぼゼロ。
 専門家の意見はばらばらで、住民は苛立ちを強めている。




NHKニュース 2011年11月11日 17時41分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111111/t10013902161000.html

タイ洪水 水位低下も警戒続く

 タイの洪水は、首都バンコクの北部からの大量の水が中心部までおよそ5キロの付近に依然としてとどまり、一部の地域では水位が下がってきたものの、満潮のときの潮位が特に高くなる「大潮」が始まっていることから、警戒が続いています。

 タイ中部からバンコクに向けて南下している大量の水は、依然として中心部までおよそ5キロの付近にとどまっています。
 バンコクでは、土のうを積むなどして浸水に対する警戒が続く一方、冠水した道路などから水を運河などに流す作業が進められていて、一部の地域では水位が少しずつ下がってきました。
 こうしたなか、タイでは10日から満潮時の潮位が特に高くなる「大潮」が始まっていますが、11日朝の満潮の時刻には、バンコクを流れるチャオプラヤ川の水位が上がったものの、先月下旬の大潮のときのように水があふれ出すことはありませんでした。
 また、以前の氾濫で今も冠水している川の近くの市場でも、それほど水かさが増すことはなかったということで、店を出している男性は
 「前よりも水位が下がっている。
 客も来るようになったので、店を開けることができるようになった」
と話していました。
 ただ、13日には大潮のピークを迎えることから、軍などが川の周辺などで警戒を続けています。





NNN.ASIA  2011年12月29日(木曜日)
http://news.nna.jp/free/news/20111229thb003A.html

大洪水、世界を揺るがす

 50年ぶりとされる大洪水は国内に深刻な爪痕を残し、日本をはじめとする世界経済にも影響を与えた。
 川の氾濫を許容し、むしろ積極的に活用することで豊かな暮らしをはぐくむ農業中心の伝統的な治水理念は、工業化による社会構造の飛躍的変化に置き去りにされていたことを露呈。
 「水とのつきあい方」を根本から考え直す必要性をタイ社会に突きつけた。

 北部からの洪水が徐々に南下していた9月の段階で、これほどの大災害になるとは政府も含め誰も予想していなかったに違いない。
 「毎年のこと」という緊張感の緩みは、しかし10月に入りサハラタナナコン、そしてロジャナ工業団地が浸水するに至って一気に吹き飛んだ。
 政府はあわてて工業団地の防御に乗り出したものの、初動の遅れと指揮系統の混乱が響き、中部アユタヤ県、バンコク北郊パトゥムタニ県の工業団地が相次いで陥落。
 日系企業も400社以上が被災し、サプライチェーンは寸断され、生産活動に深刻な打撃をもたらした。

 震災による部品不足からようやく立ち直った自動車産業は再び約1カ月の稼働停止に追い込まれ、世界生産の4割以上を占めるハードディスク駆動装置(HDD)など、減産の影響は国際市場にも広がった。
 タイ工業連盟(FTI)などの試算によると、経済への影響は1兆バーツ(約2兆5,000億円)を超える見通しだ。

 対応が後手に回った政府は首都の防衛にも失敗し、バンコク北部、西部などが広範囲に浸水。
 飲料水や非常食の買いだめ騒動、水門の開閉や土のうの設置をめぐる住民間対立といった社会問題も誘発した。
 日本の外務省は、バンコクなどへの危険情報を一時「レベル3」まで引き上げた。

 今回の洪水では、インラック首相の指導力不足が批判され、プアタイ党(タイ貢献党)政権と民主党知事が率いるバンコク都庁(BMA)の対立を背景とした「人災」を指摘する声がある。
 ただ、既存の治水インフラでは大洪水への対処に限界があることは明白で、政争よりも一刻も早い来年以降への対策が急務だ。
 また、被災企業の苦境は現在も続いており、タイが引き続き外資を呼び込み東南アジア経済の主導的役割を担い続けるには、復興に向けた強力かつ長期的な企業支援が求められよう。





 
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