2011年11月11日金曜日

電気自動車と充電問題

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● 光岡自動車(富山市):HIMIKO



ECO JAPAN 2011年11月7日
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20111101/109240/?P=1

航続距離と充電問題に挑戦する電気自動車

 2009年7月、日本初の量産電気自動車(EV)として発売された三菱自動車「i-MiEV」の航続距離(1回の充電で走れる距離)はカタログ値で180km(JC08モード)。
 2010年末に発売された日産自動車「リーフ」は「i-MiEV」より10%程度長い200km(同)である。
 満タンにしたガソリン車の半分にも届かない。
 街乗り中心に使用するなら問題ないが、ちょっと遠出となるとバッテリー残量や充電器の設置場所を気にしながらのドライブになってしまう。

 ドライブ先で充電器を見つけても困難は続く。
 充電に長時間かかるのだ。
 町中でも見かけるようになった急速充電器を使っても80%充電に30分かかる。
 もし、先客がいたら1時間である。このままでは自動車の主力にはなりにくい。

 しかし、EVの進化は加速している。
 今年に入って解決策が続々と登場してきた。

 航続距離の短さと充電時間の長さの根っこは、どちらもバッテリーの性能の限界にある。

 この問題を克服する策として大きく5つの方法が提案されている。
(1).バッテリーの大容量搭載、
(2).発電機搭載、
(3).超急速充電、
(4).バッテリー交換、
(5).EVの「電車化」
――である。
 すでに一部は実現しつつある。

■バッテリーの容量を増やす

 自動車関連部品を扱っているTGMY(大阪市)が製作した改造EV
 『550 REVolution「TGMY EV Himiko」』
が2011年10月3日、1充電走行距離で「587.3km」を達成した。
 これは、国内で市販を予定しているEVの最長距離である。
 平均速度55km/h(ドライバー交代のロスタイム除く)という条件でトライした。
 TGMYでは今後、受注生産によるEVの事業化を検討するとしている。

 TGMYが目標としたのは、米テスラ・モーターズのEVスーパーカー「ロードスター」だ。
 「ロードスター」の航続距離はカタログ値で390kmだが、2009年10月27日、オーストラリアで501kmという記録を打ち立てた。
 TGMYが記録を破るまで、市販車としては1充電の最長走行距離だった。
 500km走れればEVの実用性は格段に高まる。

 「EV Himiko」の目標は、「ロードスター」の記録を10%上回る550kmに設定していたが、今回これを軽くクリアした。
 その原動力は63kWhという大容量のリチウムイオン電池(リチウムポリマータイプ)である。
 バッテリー容量は、三菱自動車「i-MiEV」(16kWh)の約4倍、日産「リーフ」(24kWh)の2.6倍に上る。
 「ロードスター」(53kWh)と比較しても20%ほど大きい。
 「TGMY EV Himiko」の車体が大きいため、これだけの容量を積み込めた(車体全長は「ロードスター」より60cmほど長い)。



 ベース車両である「Himiko」は、光岡自動車(富山市)が、3代目マツダ・ロードスターをベースに、クラシックカー風にデザインを変更したもので、2008年12月に発表したものだ。

 テスラ「ロードスター」やTGMY「EV Himiko」以外では、中国BYDオート社の「e6」も大きなバッテリーを搭載し、300km以上の航続距離を実現している。
 バッテリーの容量は72kWhで重量は約700kgと、車体全重量2000kgの35%にも及ぶ。

■発電機でEV走行を延長

 航続距離を伸ばすために実用化されている第2の方法は発電機を積むことである。
 バッテリーに電気がある間は普通のEVとして走行し、バッテリーが切れると搭載したガソリンエンジンで発電機を動かし、EV走行を続ける。

 エンジンは使うものの、車輪を駆動するのはモーターなので、走りはEVそのものである。
 「航続距離延長型EV」あるいは「エクステンダー型EV」と呼ばれる。

 このタイプの代表は、GM(ゼネラルモーターズ)が2010年末に発売した「シボレーボルト」だ。
 バッテリー容量は「i-MiEV」と同じ16kWhで、バッテリーによる走行距離(EV走行距離)は60km弱である。
 それ以上は発電機をエンジンで駆動することにより、バッテリーと合わせて610kmの航続距離を実現している。
 2011年1月のデトロイトモーターショーの初日に披露され、「2011北米カーオブザイヤー」にも選ばれた。

 もう1つ、テスラのライバルであるフィスカー・オートモーティブも、このタイプの高級車「カルマ(Karma)」を発売予定である。
 容量20kWhのバッテリーだけで約80km走行し、残量が少なくなるとエンジン(2000cc)を起動し、発電機を回しながら走行を続ける。
 これにより、最大航続距離は480kmまで伸びる。
 今年、日本でも予約販売が始まり、話題になっている。
 価格は878万円と発表されている。

 日本勢の中では、スズキが2010年6月、「スイフト エクステンダー」を発売している。
 エンジンは軽自動車用660ccで主として発電用だが、冷暖房の動力にも利用する。
 100台弱が生産され、一般には販売していないが、スズキの販売代理店や地元浜松の公共機関などに貸し出し、実証実験を行っている。
 EV走行距離は15~20km程度だ。



■8分で80%の超急速充電が登場

 2011年9月、JFEエンジニアリングが超急速充電器「スーパーRAPIDAS」の発表会を開いた。
 これまでに実用化されている急速充電器は80%充電に30分かかっていたが、「スーパーRAPIDAS」は3分で50%、8分で80%というスピードで充電できる。

 従来の急速充電(CHAdeMo方式)の4倍というスピードで充電できる秘密は、充電器自体が内蔵したバッテリーにある。
 充電器そのものを夜間電力などで充電しておき、一種のブースター(特殊なバッテリー)を使って、EVを一気に充電する。

 JFEエンジの公表値は8分・80%だが、筆者が実際に数回にわたって計測したところ、2分で50%、8分で90%程度の充電ができていた。
 これが普及したら、EVの常識は変わる。

 超急速充電は今回新しく開発されたものであり、まだどこのEVメーカーも対応していない。
 JFEエンジでは、当初、日本の大手自動車メーカーとの共同開発を目指したが、開発のスピードを上げるため、対応EVも自前で作ることにした。
 ベースは1969年型「フェアレディ」で、日産が欧米で「ダットサン」というブランド名を使っていた当時の輸出仕様車で左ハンドルである。

 超急速充電対応型「フェアレディEV」の設計と製作を指導したのは、私が「ハマの名人」と呼ぶ、オズコーポレーション(横浜市)の古川治社長である。
 このクルマは、通常の急速充電にも対応しているので、公道を走るのも問題はない。
 電気自動車開発技術展(EVEX)2011(10月12~14日)でも専門家の注目を集めた。



■改造EVで考案した簡便なバッテリー交換

 クルマに搭載したバッテリーを充電する代わりに、空になったバッテリーをカセットのように取り外し、充電済みのバッテリーを装着する方法も試みられている。

 レーザー加工機メーカーで改造EVにも挑戦している埼玉富士(埼玉県秩父市)では、バッテリー交換方式によるEVトラック(2t積み)を製作し、2011年6月、車検に合格した。
 その作業の様子はテレビ・新聞などで紹介されたので、ご存じの読者もおられるだろう。

 埼玉富士が考案したバッテリー交換方式は、イスラエル・ベタープレイスが提案しているような大げさな装置を使わない。
 台車で運んで手作業で交換するという簡単かつ優れた方式である。
 改造EVならではの簡便なアプローチが強みだ。

 改造EVの長距離利用に道を開く意味でも大いに期待できる。
 予備バッテリーを準備する分コスト増にはなるが、今後バッテリーコストが急速に下がっていくことを考慮すると、実用性の高いアイデアと言える。

 ちなみに、埼玉富士の改造EV担当者は2人とも電気・電子が専門で自動車技術の経験はない。
 テスラの創業者もコンピュータ技術者である。
 自動車のキーテクノロジーがメカからエレクトロニクスに移ってきたことを象徴している。

■走行中の給電を可能にする技術

 ここまで取り上げた4つの方法以外にも、技術的には比較的単純だが、航続距離を大きく伸ばす方法がある。
 走行中のEVに外部から給電できればいい。いわばEVの「電車化」ある。

 航続距離が問題になるのは、町乗りよりも高速道路での走行である。
 そこで、高速道路の1つのレーンで走行中に給電を可能にする装置を設置するのである。

 一番簡単な方法は、電車と同じようなパンタグラフ方式だろう。
 とは言ってもルーフ(屋根)にではなく、床から下向きに取り付ける。
 道路に張り付けた電線というか細長い金属リボンから電気を受け取りながら走るのだ。

 例えば、中央寄りのレーンなどを「給電専用」とする。
 コストもかかるので全区間に設置する必要はない。
 給電技術そのものは、電車と同じだから問題はない。
 課金方法や、多数のクルマに対する電力供給のコントロールなど課題は多いが検討の価値はある。



 ワイヤレス給電技術の進歩にも期待がかかる。
 現在開発が進んでいるワイヤレス給電は駐停車中に行う定置型が中心だが、移動中も給電可能なシステムができれば「電車化」は大きく発展する。

 1つの方法は、電磁波送信型である。
 もともとは、宇宙太陽光発電の構想に基づいて、衛星軌道上に展開した太陽光パネルから地上に電力を送るために研究された技術である。
 1970年代後半、オイルショックによる石油高騰を受け、米国のシンクタンクが真剣に研究したことがあり、私自身、ボストン郊外にあるその研究所で短期間働いたことがある。
 発電で得た電力をマイクロ波やレーザーを使って地上に送る。

 この技術を応用して、地上でワイヤレス給電を行うためには、給電タワーのようなものを建設し、そこから走行中のEVに狙いを定め、マイクロウエーブやレーザーを「ガン」で照射する。
 これを受けて自動車側で電気に変えるのである。

 ワイヤレス給電にはいくつかの方式があり、いずれもまだ実験段階だが、EVが自動車の主役となる数十年後には実用化できると考える。

 EVが本格普及期を迎えるなかで、充電時間の長さと航続距離の短さという問題が顕在化してきた。
 しかし、解決策は用意されている。
 現段階では夜間に充電し、近場での利用に徹する使い方がEVの利点を生かすのに適しているが、中期的には超急速充電が普及し、一部でバッテリー交換方式(カセット式)が使われると考える。









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